私は月に一度、むくどりホームで「私の子どもたチャレンジド」という会を開いています。(むくどりホームのHPはこのHPからリンクできます)11月21日のテーマは新出生前診断でした。偶然その直前に茨城県教育委員、長谷川智恵子氏の問題発言があり、あらためてこの検査について考えさせられました。
新出生前診断について
- 新出生前診断とは
妊婦の血液に含まれるDNA断片を解析し、胎児の3種類の染色体異常を高い精度で調べる検査。21番染色体に異常があるダウン症、心臓疾患などを伴う13番と18番の染色体異常を判定する。陰性の的中率は99%と高いが、陽性と判定された場合、例えばダウン症である確率は35歳で80%、40歳で94%などと幅があり、確定診断には羊水検査などが必要。健康保険の対象外で費用は約21万円。妊婦は35歳以上であることが条件。
- 実施状況
2013年4月から日本医学会が認定する医療機関で開始。道内では北大病院、札幌医科大学病院が実施。2014年8月から旭川医大でも実施。
スタートから1年間で7440人が検査を受け、陽性が142人、そのうち126人が羊水検査を受け、113人に染色体異常が判明、110人が中絶を選択した。
道内では287人が検査を受け、そのうち陽性は3人、羊水検査で1人は異常なし。異常反応のあった2人のうち2人が中絶を選択した。
さらに岡山大のグループによるアンケートでは(妊婦557人回答)
「新出生前診断で陽性と判定された場合」
羊水検査を受ける 74,0%
羊水検査を受けずに妊娠を続ける 20,3%
羊水検査を受けずに妊娠をあきらめる 5,7%
(その理由「すこしでも異常の可能性がある」「週数がすすんでからで胎児がかわ
いそう」など)
- さらに・・・
「新出生前診断に新手法(2013、4~)」
・妊婦の採血と超音波検査を組み合わせたもの
・妊婦の年齢は問わない
・費用は2万5千円だが、検出率はダウン症で83%
「中国企業が新出生前診断」
・新出生前診断は日本医学会が認定した病院のみで行わなければならない
・中国企業は認定施設外で行っている可能性も。
4、「着床前スクリーニング(受精卵検査)」
日本産科婦人科学会は、体外受精した受精卵の染色体異常を調べ、正常な受精卵を選んで出産を試みる「着床前スクリーニング(受精卵検査)」の臨床研究を正式に承認。国内の限られた医療機関で2015年度にも始められる。
選ばれずに破棄の対象になる染色体異常はダウン症やターナー症候群も含まれる。
- 世間では
新出生前診断について
受け入れられる 44,2%
どちらかといえば受け入れられる 35,1%
どちらかといえば受け入れられない 11,7%
受け入れられない 4,2%
容認の理由 ・出産の準備に役立つ
・赤ちゃんの状態を知ったほうがいい
・中絶手術もあり得る
拒否の理由 ・生命の選別になる
・結果を知っても悩む
*障害のある子が生まれることに対して心構えができるということで始まった新出生前診断だが、実際にスタートしてみるとそのほとんどが中絶をしている。命の選別につながっていることは誰の目から見ても明らかではないか。
*命の選択が一般化していく傾向。障害のある子を産み育充てにくい世の中に。なぜ検査を受けなかったのか?自己責任。勝手に産んだのが悪い・・障害児を育てる親の不安。
- 函館の裁判
概要
「新出生前診断:誤報告した函館の委員に1000蔓延賠償命令」
北海道函館市の産婦人科医院「えんどう桔梗マタニティクリニック」で2011年、胎児の出生前診断結果を誤って伝えられた両親が、人工中絶の選択権を奪われたなどとして、医院側に1000万円の損害賠償を求めた訴訟で、函館地裁は5日、1000万円の支払いを命じた。
鈴木尚久裁判長は判決理由で「結果を正確に告知していれば、中絶を選択するか、中絶しないことを選択した場合には心の準備や療育環境の準備もできたはず。誤報告により機会を奪われた」と指摘した。
判決によると、母親は胎児の染色体異常を調べる羊水検査を受け、ダウン症であることを示す結果が出た。しかし医院の院長は11年5月、母親に「陰性」と誤って伝え、生まれた男児はダウン症と診断され三か月後に合併症で死亡した。
両親側は誤報告により生まれたことで、男児は結果的に死亡したと主張していたが、鈴木裁判長は「ダウン症児として生まれた者のうち合併症を併発して早期に死亡する者はごく一部」として因果関係は認めなかった。
判決を受け両親は「ミスの重大性や、生まれた子どもの命を否定しなければいけなかった親の心情を深くくみ取ってくれた。この裁判がきっかけとなり、患者や家族に寄り添う医療につながっていくことを願っている」とのコメントを出した。
遺伝情報の扱いに詳しい桜井晃洋・札幌医科大教授(遺伝医学)の話
出生前診断を含めた遺伝子検査では、患者がなぜ検査をうけるのか、結果をどう受け止めるのかまで考慮した、専門家の目を通して情報が伝えられるべきだ。今回の例は羊水検査の結果を単純に見誤って伝えたものだが、技術の進歩に伴って、検査結果があいまいな形で出るものも増えている。慎重さが求められるという意味で、判決は医療従事者への警鐘になる。
(以上 2014、6,6 毎日新聞 より)
「遠藤医師による説明ミスのせいで妊娠を続けるか否かを選択する機会、また継続した場合に生まれてくる子どもに対しての心の準備や療育の準備をする機会を失った」というのが判決文による慰謝料を認めた理由
親の言葉「もし告知ミスがなければあの子は産まれてこなかったかもしれない」 →検査の結果次第では中絶も視野に入っていたということか・・
しかし胎児の病気による中絶は母体保護法で認められていないはず
医師「中絶の権利は認められていないのだからその機会が奪われたと主張するのはおかしい」
親「私たちだけ法律を厳格にするのか?他の患者さんはどうしているのか。判決は母体保護法に矛盾しているのか?」
もし判決が確定すれば病気や障害が分かっていれば産みたくなかったという訴訟が一般的になるのでは
今回、もう一つの訴え「生まれたことによって赤ちゃん自信が被った苦痛」は認められなかった →生まれてこなかった方が良いという考え?
苦しみぬいて亡くなった息子本人に先生から謝罪してほしいという両親の考えは分からないわけではないが、この訴訟によって
「ダウン症に対する偏見が進まないか」
「病気や障害を理由に中絶が認められたことになる」
「新出生前診断をためらっていた人や陽性反応が出たら中絶をためらっていた人が堂々とできる」
・・・私はそんなことが心配です・・・
- 茨城県の問題発言
茨城県教育委員の長谷川智恵子氏が県総合教育会議の席上で話したことが問題になっている。特別支援学校を視察した経験を話すなかで「多くの障害のある子どもたちがいて驚いた。妊娠初期に障害の有無が分かるようにならないのでしょうか。4ヶ月をすぎるとおろせないですから。うまれてきてからでは本当に大変です。」「茨城県では減らしていける方向になったらいい。」などと発言した。
またその発言について、茨城県の橋本知事は「障害の有無が事前に分かり中絶したい人が中絶できる機会をふやしたらどうかという意味だと思う。悪いことではない。」
その後両氏とも発言を撤回、謝罪した。
2015.11.21
私の子どもはチャレンジド資料
青野 比奈子